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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)36号 判決 1982年8月09日

群馬県北群馬郡吉岡村大字下野田六三八番地

控訴人

斉藤一三三

右訴訟代理人弁護士

吉村駿一

同県高崎市高松町三三番地

被控訴人

高崎税務署長

右指定代理人

小田機

佐藤恭一

塩井幸雄

神田富雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。控訴人の昭和四八年分及び同四九年分の所得税について被控訴人が同五一年三月一〇日にした各更正及び加算税賦課決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張及び証拠の関係は、次のように附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する(但し、原判決七枚目裏五行目に「九月一〇日」とあるのを「九月九日」と、同一四枚目裏七行目「ガソリン」とあるのを「ガソリン等の」とそれぞれ改める。)。

一  当事者の主張関係

(一)  被控訴人の主張に対する控訴人の答弁の追加

坂田磯雄は、昭和四八年中において養豚業者である境原二三男、原澤守らに対し多額の豚の買取代金の債務を負担しており、特に原澤守からはその支払請求の訴が提起されており、吉岡村に対する公租公課も滞納し、同村内の大林しげるらに対する数万円の小口債務すら支払えない状態にあり、遂に店舗を閉鎖して行方不明となったものであって、当時の坂田の右に述べた経済状態では、控訴人の坂田に対する売掛金債権一二〇万〇九〇〇円を回収することは到底不可能なため、控訴人は、納税分だけ出金が節約できるメリットを考慮し、所得金額算定に際し本件売掛金債権を貸倒損失として処理する趣旨で、右売掛金を放棄し、その旨を坂田との間で確認したものである。したがって、右売掛金は回収不能となり、昭和四八年分として一〇〇万円、同四九年分として二〇万〇九〇〇円の貸倒損失が生したのである。

(二)  右追加主張に対する被控訴人の反論

昭和四八年、同四九年当時の坂田磯雄の経済状態が控訴人主張のようであったことは争う。すなわち、昭和四八年度及び同四九年度の村県民税等については、坂田は昭和四九年八月ないし同五〇年六月までの間に納付しているし、小口の借入金債務の不払についても確たる証拠はなく、また、坂田の行方不明の点についても、同人は千葉方面などで稼働していたものであり、決して行方不明ではなかった。なお、本件売掛金債権の放棄は、控訴人が坂田に対しその支払の請求をした後わずか五日の短時日の間になされたものでそれ自体不自然であるし、甲第一号証は税金対策のため作成されたもので、真実放棄の意思で作成されたものではない。

二  証拠関係

控訴人は、当審において、群馬県北群馬郡吉岡村長に対する坂田磯雄の昭和四八年度及び同四九年度の公租公課を徴収不能として処理した事実の有無並びにその金額及び種別の調査嘱託を求め、当審における控訴人本人尋問の結果を援用した。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求を失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のように附加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一七枚目表五行目に「原告本人尋問結果の一部」とあるのを「原審における控訴人本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)」と改める。

2  原判決二〇枚目表九、一〇行目に「所得税青色申告決算書を提出している者で、更正を受けて」とあるのを「昭和四八年分及び同四九年分ともそれぞれその年分の青色申告決算書を提出しており、税務署長から更正処分を受けこれに対して」と改める。

3  原判決二五枚目表七行目に「ガソリン」とあるのを「ガソリン等の」と、同枚目裏四、五行目に「二一号証の一及び二、第二三、第二四号証並びに第二五号証の一及び二」とあるのを「第二三、第二四号証、第二五号証の一、二、原本の存在及び成立に争いのない乙第二一号証の一、二」と、同七行目に「及び原告本人尋問の結果の各一部」とあるのを「並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果(担し、いずれも後記措信しない部分を除く。)」と、同二六枚目裏三、四行目に「算入する考慮もあって、文書として残すべく、」とあるのを「算入するための証拠として、」と、同六行目に「念書と題する書面」とあるのを「念書と題する昭和四九年三月二日付の書面」と、同二七枚目裏五、六行目に「養豚業者」とあるのを「養豚業者原澤守」とそれぞれ改める。

4  原判決二八枚目裏四行目に「及び原告本人尋問の結果」とあるのを「並びに原審及び当審における控訴人本人尋問の結果」と改め、同五行目に「証拠はない。」とある次に「なお、控訴人が当審において主張する坂田磯雄の昭和四八、四九年度の公租公課の滞納の事実については、当裁判所の調査嘱託に対する吉岡村長の回答書によれば、昭和五〇年六月までには納付されて徴収不能処理はなされていないことが認められ、また、同じく右坂田の吉岡村内の者らに対する小口債務の不払の事実については、これにそう当審における控訴人本人尋問の結果はほとんど伝聞によるものであって、それだけではにわかに措信しがたく、他にこれを認めるに足りる証拠は存しない。そして、」を、同一〇行目に「措信し難く、」とある次に「また、控訴人本人の意思も、右書面作成の目的は所得税確定申告において貸倒れとして必要経費に算入することに主眼が置かれ、完全に債権を放棄するものと観念していたものとは断じ得ないものであり、結局、」をそれぞれ加える。

二  よって、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林信次 裁判官 吉井直昭 裁判官 浦野雄幸)

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